平成24年(ネ)第6085号事件 2012年9月27日 控訴人 槌田敦 被控訴人 東京大学ほか 控 訴 理 由 お よ び 立 証 方 法 東京高等裁判所 第21民事部 御中 控訴人 槌田敦 平成21年(ワ)第47553号謝罪広告等請求事件(第一事件)、および平成23年(ワ)第10874号損害賠償請求事件(第二事件)に関する東京地裁判決(2012年8月28日)は、ごまかしで構成されるとんでもない判決であった。以下、最大の争点である「三段論法の誤謬」について、控訴理由および立証方法を陳述する。 第一、控訴理由 1.本件東京大学による名誉毀損の背景 近年、気温は上昇し、また大気中CO2濃度は上昇している。被告小宮山らは「人為的に発生したCO2が原因で気温が上昇した」と主張(CO2温暖化説)して、その対策を国に訴えてきた。政府はこの主張を受け入れ、人為的CO2の抑制を国策とした。 これに対して、原告らはCO2濃度の変化よりも気温の変化の方が1年先行するというキーリングの発見した科学的事実(1989年)、および気温の変化とCO2濃度の年間増加量の変化が一致するという共同研究者近藤邦明氏と原告が新しく発見した科学的事実 (2008年)により、「CO2により温暖化したのではなく、温暖化したからCO2濃度が増えた」と主張した。 そして、この原告らが新しく発見した事実をもとに論文を作成して、日本気象学会に投稿したが、掲載を拒否された。しかし、日本物理学会は原告の論文を採用した(甲22号証、日本物理学会誌論文)。 この新しく発見した事実によれば、CO2温暖化説は否定され、人為的温暖化対策という国策と莫大な予算は無意味となる。そのため、原告らは国策推進を妨害する者として、CO2温暖化論者の憎しみの的となった。 そのあらわれが、被告小宮山前学長の提起による東京大学発行の『地球温暖化懐疑論批判』(2009年)(甲7号証)である。この書物は、原告を筆頭に12名の科学者を「懐疑論者」と名付け、その学説に9項目の特徴を貼り付け、また原告らの学説を36項目の議論にまとめて反論した。これらの東京大学の行為は、以下に述べるように原告らに保障された学問の自由に対する侵害であり、また名誉毀損である。 2.東京大学による学説批判は許されるか 学問の発展のためには学者間で対等に学説批判をすることが必要である。しかし、東京大学という国立機関が、その権威を用いて学者個人を名指ししてその学説批判をすることは、学問の自由に対する侵害であり、そのような表現の自由を東京大学は所有していない。 ところが、東京大学は、懐疑論との議論を打ち止めにする目的(甲7−7、小宮山談話)で、東京大学の権威を利用して前記学説批判を実行した。これは東京大学による憲法23条(学問の自由)に対する攻撃であると同時に、憲法21条(表現の自由)に対する攻撃でもある。また、この行為は国大法が許す業務の範囲を超えている(原告陳述書(2))。 さらに学者個人と東京大学の間には、権威だけでなく資金や配布ルートにおいても、相互批判に必要な対等の条件が存在しない。東京大学は、『地球温暖化懐疑論批判』という本を出すのに文科省から得た358万円を使用している(乙12、濱田陳述書)。しかし、原告にはそのような資金はない。 また東京大学はこの本を全国の大学事務室にまとめて送付し、各事務室は関係教授にこの本を無料で配布した。原告にはそのような配布ルートはない(原告最終陳述書p11)。 仮に、原告が大学事務室にまとめて送っても捨てられるだけである。つまり、相互批判に必要な対等の条件は存在せず、一方的に東京大学が優位である。 そこで、東京地裁に提訴したが、東京地裁は東京大学がその権威を利用したことを認めず、またこの学者個人と東京大学の間に存在する能力の違いを考慮せず、東京大学にも学問と表現の自由があるとして原告の訴えを採用しなかった。 学問は、主流と懐疑の対立による論戦によって発展する。「仮に歴代の東大総長が小宮山宏と同じように、特定の研究の懐疑論に終止符を打つために、次々と東大の組織活動を利用して、出版物を無料で配布し、懐疑論者に対する人格攻撃を行うことになると、 東大総長の価値観に合わない研究テーマが組織と国費による爆撃を受けて、日本の学者は実質的に学問の自由を奪われるだろう」(甲17、武田邦彦陳述書p8)。 つまり、東京大学による学説批判が許されるならば、東京大学の権威と国費により、学問は東京大学の認めたものだけになり、批判的学問は消えてしまうことになる。 上記判決をした東京地裁の裁判官は、憲法でいう「学問の自由」の意味を理解していない。たしかに、大学の自治を守るためには、権力に対して大学が自由に発言する必要がある。東京地裁はこの大学の自治を守るための「表現の自由」と学者個人の学説に対する「表現の自由」とを混同している。このような憲法判断をする裁判官は失格であろう。 3.最大の争点としての「三段論法の誤謬」 本件の最大の争点は、特徴H(三段論法の間違いなどロジックとして誤謬がある)を原告ら12名に対して貼り付けたことである。 三段論法の間違いをするような者はとても科学者と認めることはできない。原告ら12名は、被告東京大学によって、科学者としての社会的評価を低下させられ、名誉毀損を受けた(第一事件訴状p5)。 これに対して、被告東京大学は、その目的は公益であり、前提とする事実は主要な点で真実であると主張した(被告準備書面(3)p2)。そして、原告の議論18には、三段論法の誤謬があり、特徴H「三段論法の間違いなどロジックとして誤謬がある」は真実である、 と主張したのである。 このようにして、懐疑論者に対して「三段論法の誤謬」と貼り付けたことが、内容として真実であったかどうかが、最大の争点となった。 4.最大争点についての東京地裁における審理 東京地裁の審理は、主に、この「三段論法の誤謬」を巡ってなされた。被告東京大学は、 この「三段論法の誤謬」について、原告に対する議論18を例に挙げた(被告準備書面(3)p5〜6)。そして被告住はその陳述書を証拠として提出した(乙9、住陳述書p5)。しかし、この準備書面や陳述書では、何が三段論法の誤謬なのか意味不明であった。 この議論18の何が三段論法の誤謬なのかについて、被告明日香(東北大学教授)に対して証人尋問をしたが、やはり意味不明の答えだった(被告明日香本人調書p41〜47)。そこで住発言を支持するという陳述書を書くことになって、結審直前に提出したのが明日香陳述書(乙19)である。 ここで、被告明日香は、被告準備書面(3)の記述を整理したとして、原告の主張を 大前提:人間が放出した二酸化炭素の約3割は海洋・森林に吸収される。 小前提:人間が放出した二酸化炭素は選択的に吸収されるので、人間が放出した 二酸化炭素のうち大気中に残存するのは3.33年分の放出量である。 結論:よって、人為的に放出された二酸化炭素の大気中滞留時間は短い。 【原告の注】参照 とまとめ、(被告明日香から見て)この小前提に誤りがあるから、三段論法は成立しないと述べた。 そこで、原告は、「議論18に三段論法の誤謬は存在せす、東京大学は原告に対して虚偽の特徴を貼り付け、これを書籍で公表したことが示された」と述べた(甲27号証、原告陳述書(5)p1)。つまり、大前提や小前提が真実であるか否かは三段論法とは別の話であっ て、議論18には「三段論法の間違い」はなく、「ロジックの誤謬」でもない。 さらに、原告は、「明日香被告は、『三段論法とは、ふたつの前提だけから結論を得る』 ことについて無知であることを示してしまった」とも述べた(最終準備書面p9)。 すなわち、被告東京大学は、特徴H「三段論法の間違いなどロジックとして誤謬がある」という懐疑論者への貼り付けが真実であるという証明に失敗したのである。 ところが、東京地裁は、その判決において、この原告陳述書(甲27号証)および原告最終準備書面での原告の主張を引用しなかった。 一方、この被告明日香陳述書(乙19)の内容をもって被告東京大学の主張とし、論評の真実性については、「見解の対立のあることは事実であり、項目ケ(特徴Hと同じ)の論評が前提としている事実は真実であるというほかはない」と結論した(地裁判決 p18)。 東京地裁の裁判官が、三段論法とは何かを知らないとは思えないから、特徴H(三段論法の誤謬)が真実ではないことを意図的にごまかすために、「意見の対立という事実」が存在することをもって、「論評が前提とする事実は真実である」と述べ、あたかも論評の内容が真実であるかのような奇弁を作成したのである。このようなごまかし判決を書くあたり、呆れ果てた東京地裁の判決である。 ────────────────────────────────── 【原告の注】この被告明日香による三段の記述を「三段論法」というのかどうか についても首を傾げるが、ここでは問わないことにして、 被告明日香による原告の主張の要約がでたらめであることを示す。 @大前提では、「毎年」が抜けている。 だから議論18の反論のような海洋や森林に吸収される割合が 「3割」なのかそれとも「5割」なのかという混乱した議論になる。 A小前提では、「選択的」という考えを原告はしていない。 大気中のCO2は、人為的であろうと、天然であろうと、 同じ挙動をする。被告明日香は何を勘違いしているのか。 Bこの3.33年は被告明日香が述べるような「選択的」ということ で得たのではなく、等比級数論により導いたものである。 第二、立証方法 1.被告側証人尋問の必要性 そもそも、大気中CO2の滞留時間が短いことはすでに気象学の常識であって、『気象ハンドブック(1984年)』朝倉書店p61には、大気中のCO2の滞留時間は2〜4年とある(原告準備書面(3)p5)。原告はこの数値を等比級数論により3.3年と具体化したのである。 この「滞留時間が短い」という気象学での常識については、被告住東大教授の証言を得て、被告明日香の主張が成立しないことを立証する予定であったが、地裁裁判長はその立証を許さなかった。 さらに、上記「三段論法」の記述は被告明日香東北大学教授の創作である。被告東京大学は、この明日香陳述書でいう「三段論法」を主張する筈がない。そのようなことをすれば、東京大学は「三段論法も知らない」として世間の笑い者になる。 結局、被告東京大学は、原告ら12名の懐疑論者の議論に「三段論法の誤謬」の例を見いだせなかった。そこで、特徴H「三段論法の間違いなどロジックとして誤謬がある」の原案作成者と思われる住被告は、やむを得ず意味不明の住陳述書(乙9)を書き、それを基に被告代理人は準備書面(3)としたと思われる。 この三段論法の誤謬に関する被告東京大学の主張について、原告は、書籍『地球温暖化懐疑論批判』の発行責任者である被告濱田東大学長の証人尋問で明らかにする予定であった。被告濱田は、明日香陳述書(乙19)の内容、すなわち判決でいう「被告東京大学の主張」を、容認するとはとても思えないからである。 すなわち、被告濱田は、東京大学学長のプライドにかけて、被告明日香東北大学教授のような初等論理学の無知をさらけ出す筈はなく、「小前提が間違っているから、三段論法の誤謬」と証言する筈はないからである。 しかし、地裁裁判長は被告濱田の証人尋問を許さなかった。今にして思えば、裁判長はこの時すでにこのようなごまかし判決にすることを予定していたのであろうか。 残念ながら、このような初等論理学もごまかすという奇弁判決を書くようでは、日本の裁判は文明国のものとは言えないことになる。 2,具体的な立証方法 以上述べたように、高裁での審理では、この最大争点「三段論法の誤謬」について、被告濱田および被告住の証人尋問を欠かすことはできない。また、被告明日香の証人尋問の後に提出した明日香陳述書(乙19)が東京地裁によるごまかし判決の原因となったのであるから、被告明日香の再尋問も必要である。そして可能ならば、このごまかし判決を書いた地裁裁判長都築政則の証人尋問を申請する。 第三、その他の争点についての控訴理由と立証方法 以上、本件学問の自由侵害および名誉毀損事件の最大の争点である「三段論法の誤謬」に関して陳述したが、その他の争点については、後に控訴理由および立証方法についての補充書として提出する予定である。 その際、特徴H以外の争点についての立証方法としての被告濱田、被告住、被告明日香の証人尋問に加え、特に、本件の出発点となった被告小宮山前学長の証人尋問が必要である。 以上